1. はじめに
大切な人との別れを終えたばかりの遺族にとって、心の整理がつかない中で直面するのが「葬儀後の法的手続き」です。実は、葬儀が終わった後にも多くの手続きが必要であり、その内容は多岐にわたります。
死亡届や年金の停止、保険証の返納、相続に関する届け出や名義変更など、短い期間の中で進めなければならないものも少なくありません。中には、提出期限を過ぎると不利益を被る可能性がある手続きも含まれています。
とはいえ、「何から始めればよいのか」「誰が手続きするのか」「どれくらいの期限があるのか」など、実際にはわかりにくいことも多いのが現実です。
本記事では、そうした葬儀後に必要となる手続きをわかりやすく整理し、「何を」「いつまでに」「誰が」行えばよいのかを具体的に紹介していきます。遺族として、ひとつひとつ確実に対応できるよう、ガイドとしてご活用ください。
2. 死亡後すぐに必要な手続き
葬儀を行うためには、まず法律に基づいた「死亡の届け出」が必要です。手続きの遅れは葬儀の準備や火葬にも影響を与えるため、できるだけ速やかに進めましょう。ここでは、死亡後すぐに必要となる主要な2つの手続きを紹介します。
・死亡診断書の取得と提出
まず最初に必要なのが「死亡診断書」の取得です。これは死亡を確認した医師が発行する公的書類で、死亡の事実や日時、死因などが記載されています。
この死亡診断書は、市区町村へ提出する「死亡届」と一体となっており、1枚の用紙に2つの役割があるのが一般的です。
- 提出期限:死亡の事実を知った日から7日以内
- 提出先:死亡地、本籍地、または届出人の所在地の市区町村役場
※この期限を過ぎると罰則の対象となる可能性があります。
・死亡届の提出と火葬許可証の取得
死亡届の提出が完了すると、自治体から「火葬許可証」が交付されます。これは葬儀社や火葬場で火葬を行う際に必須となる書類です。
- 火葬許可証は、提出と同時に即日交付されることが多い
- 火葬後は「埋葬許可証」に書き換えられ、納骨時に使用される
死亡届の提出者は以下のいずれかに該当する人である必要があります:
- 親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)
- 同居人
- 家主・地主・管理人
- 後見人や保佐人などの法定代理人
通常は葬儀社が手続きを代行してくれることが多いですが、提出者として誰が記名するかは明確にしておきましょう。
3. 葬儀後すぐに行う手続き(~7日以内)
葬儀が終わった後も、行政上の手続きはすぐに始まります。特に健康保険や年金の手続きは期限が短く、忘れると後々のトラブルや返還請求につながることもあります。ここでは、葬儀後すぐに行うべき代表的な2つの手続きを紹介します。
・健康保険・介護保険の資格喪失届
故人が国民健康保険または後期高齢者医療制度に加入していた場合、死亡によって保険の資格が失われるため、速やかに「資格喪失届」を提出する必要があります。
- 提出先:市区町村の窓口(保険年金課など)
- 期限:葬儀後できるだけ早く(7日以内が目安)
- 必要書類:
- 死亡診断書(またはそのコピー)
- 健康保険証
- 届出人の本人確認書類(運転免許証など)
また、介護保険証を持っていた場合も同様に、介護保険被保険者証を市区町村に返納します。
※いずれも自治体によって細かな運用が異なるため、役所に確認するのが確実です。
・年金の停止手続き
故人が国民年金や厚生年金を受給していた場合、その受給権は死亡と同時に消滅します。これを放置すると、受給を続けていたとみなされ、後日返還を求められる場合があります。
- 届出期限:原則として死亡を知った日から14日以内
- 提出先:
- 国民年金 → 市区町村の年金担当窓口
- 厚生年金 → 年金事務所または年金相談センター
- 必要書類:
- 死亡届の写しまたは死亡診断書
- 年金証書
- 故人と届出人の身分証明書
さらに、未支給年金(亡くなった月分までの年金)が発生する場合は、一定の条件を満たした遺族が請求することができます。
請求できる遺族:配偶者、子、父母など生計を同一にしていた人
提出書類:請求書、戸籍謄本、住民票、通帳のコピーなど
4. 相続関連の法的手続き(3カ月以内/4カ月以内など)
・遺言書の有無の確認
まず確認したいのが遺言書の有無です。遺言書の内容は、相続の進め方や分配方法に大きく影響します。
- 自筆証書遺言(本人が手書きした遺言)が見つかった場合は、開封せずに家庭裁判所へ提出し、「検認」の手続きが必要です(検認前に開封すると過料の対象になることがあります)。
- 公正証書遺言が作成されていた場合は、検認の必要はありませんが、内容の確認と執行準備が必要です。
遺言が見つからない場合は、法定相続人による協議が必要になります。
・相続放棄や限定承認(3カ月以内)
相続は財産だけでなく、借金などの負債も引き継ぐ可能性があります。そのため、相続の内容をよく調べたうえで、以下の判断をする必要があります。
- 相続放棄:一切の権利・義務を相続しない(最初から相続人でなかったことになる)
- 限定承認:相続によって得た財産の範囲内で、借金などを返済することを前提に相続
これらはどちらも相続の開始(=死亡を知った日)から3カ月以内に、家庭裁判所へ申し立てが必要です。
放置すると「単純承認」とされ、自動的にすべての財産・負債を相続したとみなされるため、注意が必要です。
・準確定申告(死亡翌日から4カ月以内)
故人が個人事業主であったり、副業や不動産収入などがあった場合は、「準確定申告」が必要です。
- 提出期限:死亡した日の翌日から4カ月以内
- 提出先:所轄の税務署
- 必要書類:
- 故人の所得に関する資料(帳簿・給与明細など)
- 各種控除証明書(医療費控除や生命保険料控除など)
- 遺族の印鑑・本人確認書類
相続人全員の連名で提出することが求められます。また、申告によって税金が発生する場合は、納税も併せて必要です。
5. 名義変更・解約等の実務手続き
■ 銀行口座・クレジットカードの凍結・解約
故人の死亡が金融機関に伝わると、銀行口座は即時に凍結され、引き出しや振込などの取引ができなくなります。
- 凍結後は、相続手続きが完了するまで資金の動かしは不可。
- 葬儀費用など緊急に必要な支出がある場合は、相続人全員の同意が必要になることも。
- クレジットカードについても、カード会社に連絡して速やかに解約申請を行いましょう。
■ 不動産の名義変更(登記)
故人名義の不動産(自宅・土地など)がある場合、相続による名義変更登記が必要です。
- 必要書類:
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印)
- 相続関係を証明する戸籍謄本一式
- 登記申請書・固定資産評価証明書
- 登記申請先:法務局
- 登記の義務化:2024年より相続登記は義務化(3年以内)され、怠ると過料の対象となるため注意が必要です。
■ 自動車や携帯電話などの契約者変更
手続きの際は、故人の死亡を証明する書類の提出を求められることがあります。
- 自動車の名義変更:管轄の運輸支局で手続き
- 携帯電話・インターネット契約:キャリアの店舗・カスタマーサポートで対応
- 公共料金(電気・ガス・水道):契約引継ぎ手続きが必要
6. 注意したいトラブルと対処法
■ 相続人間のトラブル予防(遺産分割協議書)
相続人全員で財産の分け方を話し合う「遺産分割協議」は、法的に有効な文書「遺産分割協議書」を作成することでトラブル防止に役立ちます。
■ 未成年相続人がいる場合の特別代理人
未成年者が相続人の場合、家庭裁判所に申し立てて「特別代理人」を選任してもらう必要があります。
■ 法律・税務の専門家(司法書士・税理士)の活用
司法書士・税理士・行政書士・弁護士などの専門家に相談することで、手続きミスを防ぎ、トラブルの回避につながります。
7. まとめ
葬儀後の手続きは大変ですが、丁寧に進めることで心の整理にもつながります。無理をせず、必要に応じて専門家に相談しましょう。これが「もうひとつの供養」となるかもしれません。

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